きみのふいうち
……ねぇ、変だよ。
桐原くんとわたしが付き合ってるかどうかなんて、暁くんにとっては他人事なはずでしょ?
百歩譲って、仲の良い同期の恋愛事情が気になったんだとしても、暁くんならもっとさりげなく聞くよね?
こんな聞き方するなんて、おかしいよ。
わたしと桐原くんが付き合ってなかったことに、そんな安堵した顔するのも、おかしい。
どうして?
あんなにきれいな彼女がいるのに。
ずっと大事にしてる人がいるのに。
わたしが割り込む余地なんてないのに。
どうして、わたしのことを気にするの。
「……確かめたいことって、それだけかな?」
思わず口をついて出た言葉は、声になるととても冷たい響きを持って自分の耳に届いた。
暁くんが、驚いたようにわたしを見る。
「あ、うん、それだけ。ごめん、変なこと聞いて」
「いいよ、大丈夫。……じゃあわたし、デスクに戻るね」
これ以上ここにいたら、なんだか自分の感情が溢れてしまうような気がした。
名前もわからない、ただ激しいだけの感情をコントロールできずに、ひどい言葉で暁くんにぶつけてしまうような気がした。
だから、早くこの場から逃げ出してしまいたくて、椅子から腰を上げる。
──いっそ口にしてしまえばいいんだと分かってはいた。
どうしてそんなことを気にするの。大事な彼女がいるんだから、わたしのことなんて気にしないで。
思わせ振りなことを言わないで。
わたしと桐原くんのことなんて気にする必要ないよね。
もしも桐原くんと付き合っていたって、暁くんには関係ない。
……なんて。
そんなことを言って嫌われてしまう勇気が、わたしにあるわけもない。
無責任にわたしの心をかき乱す暁くんに腹が立つのに、それ以上に、意気地なしの自分が腹立たしくて……情けない。