きみのふいうち

……ねぇ、変だよ。

桐原くんとわたしが付き合ってるかどうかなんて、暁くんにとっては他人事なはずでしょ?

百歩譲って、仲の良い同期の恋愛事情が気になったんだとしても、暁くんならもっとさりげなく聞くよね?

こんな聞き方するなんて、おかしいよ。

わたしと桐原くんが付き合ってなかったことに、そんな安堵した顔するのも、おかしい。

どうして?
あんなにきれいな彼女がいるのに。
ずっと大事にしてる人がいるのに。
わたしが割り込む余地なんてないのに。

どうして、わたしのことを気にするの。

「……確かめたいことって、それだけかな?」

思わず口をついて出た言葉は、声になるととても冷たい響きを持って自分の耳に届いた。

暁くんが、驚いたようにわたしを見る。

「あ、うん、それだけ。ごめん、変なこと聞いて」

「いいよ、大丈夫。……じゃあわたし、デスクに戻るね」

これ以上ここにいたら、なんだか自分の感情が溢れてしまうような気がした。

名前もわからない、ただ激しいだけの感情をコントロールできずに、ひどい言葉で暁くんにぶつけてしまうような気がした。

だから、早くこの場から逃げ出してしまいたくて、椅子から腰を上げる。

──いっそ口にしてしまえばいいんだと分かってはいた。

どうしてそんなことを気にするの。大事な彼女がいるんだから、わたしのことなんて気にしないで。
思わせ振りなことを言わないで。

わたしと桐原くんのことなんて気にする必要ないよね。
もしも桐原くんと付き合っていたって、暁くんには関係ない。

……なんて。
そんなことを言って嫌われてしまう勇気が、わたしにあるわけもない。

無責任にわたしの心をかき乱す暁くんに腹が立つのに、それ以上に、意気地なしの自分が腹立たしくて……情けない。
< 63 / 91 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop