きみのふいうち
「あ、ごめん、驚かせた? 資料のチェックおわったから、このまま印刷お願いしたいと思って……」
「えと、だ、大丈夫。印刷ね、うん、了解です」
やっぱり意識したらダメだ!
なんか変。どもっちゃうんですけど!
「あ、これ。コーヒー、どうぞ」
ちょうど出来上がったコーヒーを渡すと、暁くんはそれを受け取って、ありがとう、と呟くように言うと、じっとわたしの目を見てきた。
「あの、さ。こんなときに言うのもあれなんだけど、……昨日言ったこと、本気だよ」
「え?」
「本当に彼女はいないし、好きなのは花南さんだけだから。信じてもらえるまで頑張るよ」
まさかの言葉に驚いて、なにも言えなかった。
暁くんからこんなことを言ってもらえるなんて、本当に夢じゃないだろうか。
「こんなふうに、いつも美味しいコーヒーいれてくれるし。資料も丁寧に作ってくれて……、ありがとう」
「そんな、わたしにはそれくらいしかできないし……」
暁くんの仕事をサポートするのがわたしの仕事。
それでも、わたしができることは少ない。
それなのに、わざわざお礼を言ってもらうなんておこがましいよ。
わたしが困ったように言うと、暁くんは小さく笑う。
「そんなことないよ。いつも本当に助けられてるから。……それじゃあ、印刷、よろしく」
コーヒーを片手にそう言って給湯室を出ていった暁くんの後ろ姿を見送って、唐突に胸を襲ったのは、涙がこぼれてしまいそうな衝動。
今までの、見ているだけで満足していた自分が嘘みたいだ。
……傍にいたい。
そして、優しいその手に触れたいと、心が強く求めている。