きみのふいうち

「残業大変だね、おつかれさま」

ぱきっと音を立ててペットボトルを開けた桐原くんに労いの言葉をかけると、サンキュ、と笑みを浮かべた桐原くん。
反射的にわたしも笑い返した、そのときだった。

後ろでかすかな足音が響いた。

不思議なことにそれだけで、その音の主が暁くんだと分かる。

一気に身体を緊張が走り、きっとそれは表情にもあらわれてしまっているだろう。

桐原くんはわたしを怪訝そうな表情で見たあと、休憩室のドアのほうに視線を向けた。
そして入ってきた人物を確認して合点がいったように小さく息を吐くと、ニヤリと含みのある笑みを浮かべてわたしを見る。

なに、その面白がるような顔は…!

「へえ?」
からかうような口調に、わたしは眉をひそめた。

「なに?」
「べつになんにも? じゃあ、俺戻るわ。またな」

さらっとそう言った桐原くんは、急に腰を折って、椅子に座るわたしと視線を合わせてきたかと思うと、耳元で「頑張れよ」と囁いてきた。

「なっ…!」

カッ、と顔に熱が集まってくるのを感じる。
そんなわたしの動揺を面白がるように見たあと、桐原くんは休憩室を出ていった。

なんなの。
桐原くん、なんでもお見通しすぎてこわい!

「花南さん」

わたしの名前を呼んだのは、間違いなく暁くんの声。
遠慮がちな声だったけれど、聞こえた瞬間ドキンと大きく胸が鳴り、びくりと肩が揺れた。
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