乱華Ⅱ
「………ねぇ」
「…あ?」
店へと続く階段横にしゃがみこんだまま、顔を伏せていると頭上からかかる声。
その声につられるがまま顔を上げると、ケバめの“いかにも夜”といった格好の女が俺を冷たく見下ろしていた。
その女は俺が顔を上げたのを確認して、困ったような、哀れむような顔をする。
そして
「…ミリならいないけど?」
まるで俺が、ここに来るのがわかっていたかのような言い方。
「……いないって、どういうことだよ」
自分でもわかる位に声が低くなる。
その真意を確かめるように、女を睨んだ。
「そのままの意味よ。ミリはいない。もうここにも来ないわよ?」
睨まないでよ。と、女は曖昧に笑った。
…意味がわからねぇ。
いないってどういうことなんだよ?
ミリは昨日までは確かにここにいただろ?
来ないってどういう事なんだよ…
混乱する俺にさらに女が言葉を紡ぐ。
「ミリはここを辞めたわ。そしてこの街にももういない。…もうわかるでしょ?」
「…」
「捨てられたのよ。あなた」