『西方城重臣・小倉主膳介という武士』
「妖怪退治でございますか・・」
少々驚いた顔をして言う・・。
「そなた、幼き頃より、わしらの目には見えぬものが、見えておったのではないか?」
ん?と主膳介の近くまできて、顔を覗かせて言う・・。
主膳介は拳(こぶし)をつくり、膝の上におき、強く握りしめる・・。
主膳介の頬に汗がつたう・・。
兄上は、知っておられるのだ・・。
兄上に気味悪と思われたくはない・・。
兄上にだけは・・。
ふるふると主膳介の肩が震える・・。
それに気がついた、殿様こと、宇都宮氏(うとみやうじ)は、包み込むように異母弟を抱きしめた・・。
「大丈夫だ・・。俺はそなたを嫌いになったりなどせぬ・・。」
何度も何度も繰り返し、そう言って、彼をなだめていた・・。
孟夏(もうか)の夕刻の出来事であった。