safety place


「ねえリリー。・・・君はどうして抱かれるの?」

「拓さんは、どうして抱くの?」

 質問には質問で返すと決めていた。だって、ハッキリと答えられる理由なんてないのだから。

 彼はたっぷりの間をあけて、ぼそぼそと答える。

「・・・君が、魅力的だから」

「違うでしょ、拓さん。ただ、たまたま男と女だからよ」

 彼は苦笑する。それからまた、二人とも黙ってぼんやりとするのだ。


 甘ったるい告白も、健全な抱擁も、ここにはない。

 不満も嫉妬も不条理なイライラも、ここには持ち込んではならない。

 ただただ、正直な自分に戻るだけ。

 好きか嫌いかと聞かれれば、好きだと断言する。だけど、恋だの愛だのとはちょっと違うと感じている。

 手を伸ばす相手がいて、彼のその、こちらを見る瞳が好きだ。静かな雰囲気も、淡々とした物言いも、好きなのだ。そして、自分の目の前にいる。

 だから近づいていく。そっと唇を押し当てる。手が回される。熱も呼吸も分け合いだす。

 それは流れるように自然な出来事で、理性や頭脳は必要ない。

『夢の終わりって、どんなのかな、先生?』

 昔、私がそう聞いた時、拓さんはうっすらと笑った。教科書を広げて、壁にもたれた格好で。

『・・・さあ。俺には判らないな。興味もないからね。・・・だけど』

『だけど?』

『ちょっと物悲しいんじゃないかな、多分ね。だから、夢は終わらないほうがいいのかも』


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