竜宮ランド(短編)
お父さんは申し訳なさそうに話し始めた。



「お父さんとお母さんは昔、山に囲まれたとこで大きくなったんだ。小さい頃、海を見たことが無くてな。今のうちにお前にも見せてやりたかったんだよ。なのに、自分たちの方が夢中になっちまって……許してくれな」



お父さんはペコリと頭を下げた。



「それより……?」



僕はまだ事態を理解できていなかった。



「あなた、溺れてたのよ」



お母さんが僕の目をみつめていった。



「え?」



「小さい子供は背の立つとこでも溺れてしまうことがよくあるらしい。ほんと、助かってよかった」



そう言うと、お父さんは僕の両肩をグイッと掴んだ。


あの時、僕の腕を掴んだ手はもっと細く柔らかかったような気がする。

きっと、お母さんが助けてくれたんだ――。



「来週は必ず竜宮ランドに連れてってやるからな」



お父さんが言った。



「もういいよ……」



僕は消え入るような声で答えた。



「え?」



お父さんとお母さんは不思議そうな顔で見つめあった。
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