相合い傘
「そして、ここで働くには、コーヒーの淹れ方を必ず覚えてほしいんだけど、それは指導係の東さんや有沢くんに教えてもらってね」
「有沢...さん?」
「ああ、そうそう。有沢くんが、果穂ちゃんの指導係なんだ。
彼、なかなか笑わなくて無愛想に見えるかもしれないけど、怖がらなくて大丈夫だからね。少し、人付き合いに慣れてないだけだから」
「わかりました...」
有沢さん、かあ。
彼、ということは、男性...かあ。
男性とあまり接したことのないあたしは、少し緊張していた。
仲良くなれるだろうか...。
どんなことを話せばいいのだろう?あ、仕事以外のこととか、話しちゃいけないのかな。
そんなことを悶々と考えていると──
───キィ...
背中から、ドアの開く音が聞こえた。
ふわっ、と外の風が舞い込んで、あたしの髪が揺れた。
「───ああ、来たね」
店長が、笑いながらドアの方を向いてそう言った。
それにつられて、あたしもドアの方へと、ゆっくりと振り返った。