愛なんてない



お兄ちゃんは両腕をわたしの背中に回し、グイッと息苦しいほど抱きしめてきた。


「弥生……無事だったんだな」


弱々しく震える声音に、わたしは咲子さんによりも強く胸が痛む。


わたしと唯一血が繋がる長年ともに暮らした肉親だから、その感情の動きは手に取るように判る。


その窶れ青ざめた顔を見れば、お兄ちゃんが一晩中わたしを探し回ったことは容易に想像できた。


わたしは幼い子どもに戻った気持ちで、ハラハラと涙をこぼす。


「ごめんなさい……ごめんなさい……ごめんなさい」


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