愛なんてない
狂気
「痛……ッ!」
ドサッと背中に固い痛みを感じ、わたしは小さな悲鳴をあげた。
気がつけば、お兄ちゃんの顔がすぐ間近にあって、半身でわたしの体を壁に押し付けてた。
お兄ちゃんの顔は逆光で表情がよく見えない。
「お……お兄ちゃん?」
わたしが震える声で呼ぶと、お兄ちゃんの指先がわたしの首筋を撫でた。
「……こんな痕を付けられて……コンシーラーで隠したつもりか」
「お兄ちゃ……っ!!」
わたしの声はすぐに小さな悲鳴に変わった。お兄ちゃんが屈んで痛みが走ったから。
噛まれた……。
そう認識した瞬間、ゾッと背筋が寒くなった。
「止めて……お兄ちゃん!」
わたしは力の限りお兄ちゃんから逃れようと身を捩り手足を動かした。
でも、オトナの男性であるお兄ちゃんに敵うはずもなく、わたしの両手は後ろ手に縛りられた。