愛なんてない
『はあい、麻美です! なに弥生? こんな夜中に。また眠れないの?』
「………………」
声が、出なかった。
呼吸する事さえ難しくて、喉から意味ある韻が出せない。
出せたとしても、ザアザアと激しく降る雨でかき消される。
『弥生? もしも~し? いたずら? それともまたケータイ握りしめたまま間違えてリダイヤルしたの?』
はあ、はあとわたしは荒い息をするのがやっとで、何も伝えられない。
やがて、指から力が抜けてケータイが水たまりに落ちた。