愛なんてない
いくら日中より人が少ないとはいえ、わたしの右手を取って引いてくれたから。
ドキン、ドキンと胸が鳴るのはどうしてだろう?
頬が熱を帯びて熱い。
「はぐれるなよ」
京は小さく呟くと、わたしの手を引いたままカートを押す。
「……はい」
顔が上げられないまま、わたしは京についてゆく。
ふわふわとした足取りで、砂糖菓子に近い甘い気持ちはなんだろう?
こんなに他人を身近に感じた事はない。
冷蔵ケースの温度を保つため、年中問わず寒い食品フロアで、わたしはいつも困る寒さなんか微塵も感じない。