可愛げのないあたしと、キスフレンドなあいつ。
* * * *
『女子にこういうこと頼むの最低だって分かってるよ』
昨日の放課後。
ほとんど人がいない図書室で、いつものように問題集を解いていると。
七瀬由太が突然あたしに話し掛けてきた。
『ごめん。……でも崎谷さん、理由は聞かずに、俺とキスしてもらえない……?』
そういってあたしの顔色を伺いながら、すまなそうな顔をする七瀬由太をみて、あたしはすぐにだいたいの事情を察した。
よく渚たちのグループは、周囲のクラスメイトたちに聞かれているのもおかまいなしに、
『一週間のうちに何人の女に告らすことが出来るか』を競ったり、『この廊下を一番最初に歩いてきた先生のケツをおもいっきり叩いてくる』とか、馬鹿馬鹿しいけどわりとシャレにならない類の罰ゲームをたのしんでいた。
七瀬由太は、たぶん王様ゲームか何かで負けて、クラスで一番さえない『根暗ぼっち』にキスしてこい、という指令を言い渡されたのだ。
イケメンだけど草食系でいかにも気が弱そうな七瀬は渚たちに逆らえないのだろうし、あえて逆らって仲間はずれにされるようなリスクも冒したくないのだろう。
そのためだったら涙を飲んでブスとキスをしてしまおうと。
そういうところなんだ。