可愛げのないあたしと、キスフレンドなあいつ。


『おまえ帰ったの?』


通話ボタンを押すと。王様は前置きなしに、いきなり不機嫌っぽい口調できいてくる。


「帰ってねぇし」

『じゃあ今どこいんだよ』



声がすこしイラついてる。その理由を察しながらも答える。



「タリーズ」



電話の向こうに沈黙が落ちた。



『おまえな。俺さっきスタバ行けって言ったよな?』



どうやら渚はずっとスタバであたしを探していたらしい。
怒りを押さえ込んだその声に笑いそうになりながらも答える。



「あたしスタバよりこっちのコーヒーのが好きだし」

『……………そういうヤツだよ、おまえは』



渚は大きな溜息をわざとみたいに聞かせたあと、ぶつりと切った。







渚の不機嫌な声を聞いた後。

なんだかお気に入りのカフェラテがいつも以上においしく感じる。

久しく感じたことがなかったこの感覚。




なんだろう。たぶん今あたしはちょっと調子に乗ってる。




渚があたしに振り回されてくれてることを、たのしいって感じてる。







………昔、聖人に。

『不用意に異性を引っ掻き回すような言動を取っちゃいけないよ』って注意されたことがあるけど。

聖人に『いけない』っていわれたことは、やっぱどれもひとつ残らずたのしいことばかりだ。


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