可愛げのないあたしと、キスフレンドなあいつ。


カフェラテの最後のひとくちを飲もうとしたとき、不意にお店の空気が変わった。


店内に一瞬沈黙が落ちて静まり返って。
次の瞬間、それに反発するかのように、好奇心いっぱいのざわめきが広がっていった。


向かいの席に座ってる、女子大生っぽい3人組みの囁きがきこえてくる。


「やばい。タイプなんですけど」
「イケメンだし、背も高いね」
「うわあのコ、レベル高っ。マジかっこいいね、ひとりかな?」



あたしの背後で、ゆっくりと人が近付いてくる気配と一緒に、周りの女の子たちの視線も移動してくる。



振り返らなくてもわかる。



だからあたしは入り口に背を向けたまま、残りのコーヒーを啜った。

渚は黙ってあたしの隣のスツールに座ってくる。



座面は高いのに、長い脚がそれでも嫌味にはみ出して。それがまた様になっていた。



「………コーヒー、頼まないの?」



あたしの問いに、渚はすこし怒ったような拗ねたような顔をする。



「生憎俺はおまえと違ってコーヒーじゃなくてホイップごてごて、キャラメルソースぼてぼての胸焼け寸前のクソ甘いのが好きなんだよ」

「フラペチーノ的な?甘ったるいヤツ?渚に似合ねぇし」

「悪かったな」




------------意外に甘党なんだ。





会話をすると、今まで知らなかった渚の扉がそっと開かれていく。

そのことに胸を弾ませてるあたしがいる。



もっと他の扉も開けてみたいって、そんなことを思っている自分がいる。






「ここにもスタバと似たようなメニューあるけど?それにシロップとかホイップとか、トッピング追加すれば似たようなゲロ甘なフラペチーノ、作って貰えんじゃん?お金ないならおごるし。これで買ってこれば?」


そういってあたしが真っ赤なトリーバーチの財布を手渡してやると、渚はすぐにそれを突き返してくる。



「何?べつに遠慮しなくていいけど」

「…………こういうの、やめろよ」



拒否った渚がマジな目をするから驚いた。


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