可愛げのないあたしと、キスフレンドなあいつ。
「ってか、今更ニカにそういうこと聞かれると思わなかった」
「………あのさ。ほんと何度も言うようだけど。もういい加減にあたしのこと、『ニカ』って呼ぶのやめてくれないかな」
「前から思ってたけどさ、おまえなんで呼び方ひとつにそこまでこだわるんだよ。……元彼に『ニカ』って呼ばれてたとか?」
そう言ってじっとあたしを見つめてた渚の手が、長い前髪で隠れてる、あたしの額の左側に伸びてきて。
でも指先がそこに触れる前に、渚は手を引っ込めた。
渚はたった今の自分の行動がなかったかのような顔をして、あたしの顔から目を逸らす。
気付いてるならべつに触ってもいいのに。
その傷に。その理由に。
でも渚は今日もまた気付かないふりをし続ける。
あたしの額に走った、もう消えることがない傷に、たぶん渚はずっと前から気付いているくせに。
あたしの額を見るたびに、それが誰にいつ付けられた傷なのか、聞きたがってる顔をしてるくせに。
それでも渚は『聞かずにいるやさしさ』ってやつをずっと前から貫いてる。
「……お金目当てなら、逆にわかりやすくて安心するのに」
渚は不可解そうに目をすがめる。
「どういう意味?」
「べつに。ただ仮にお金目的の男にあり金全部搾り取られたとしても、どうせあたしが稼いだ金でもないから、痛くも痒くもないから。渚がそんな心配することないよ」
「………おまえほんと意味のわからねぇ女だな」
投げやりなあたしの言葉に、渚は呆れた顔をする。
金目当てのあくどい男より、目的がよく分からない相手の方がよっぽど厄介だ。安心できないのがイヤだ。
ときどきそんな収まりの悪い感情を、渚に感じる。