可愛げのないあたしと、キスフレンドなあいつ。
結局渚は何も飲まないで、なんのためにあたしをコーヒーショップに送り込んだか分からないまま店を出た。
「行くか?」
そういって駅までいって、なんとなくついでみたいに改札前の電光掲示板の下でまたキスをした。
渚とはキスしまくってる所為で感覚が麻痺しちゃってるのか、こんな人がたくさんいるところでキスしても、もう何も感じない。
それくらい渚とのキスは、当たり前で普通なことになっている。
「じゃ、あたし先に行くから」
そういって、先に改札に向かう。
いつもバラバラに帰るのは、なんとなく暗黙の了解みたいなものだった。
王様は王様、ぼっちはぼっち、それぞれのポジションに帰っていくための儀式みたいな。
「おい」
でも今日は渚に引き止められた。
「……何か?」
「そう喧嘩腰な返事すんなよ。……これ。この中にあるの、おまえのだから」
そういって渚が、自分の着ているブレザーのポケットを指差す。
「……何?」
もう一度聞いても渚は何も答えずに、意味ありげに笑ってポケットを指差してる。
どうやら『この中に手を突っ込め』ということらしい。
見るからになにか罠っぽいもの仕込んである。
わかっててあたしがその罠に食いついてくるのか逃げるのか、試してる。
キスするよりも、なんかよっぽどバカップルっぽい。
そう思いながらもしょうがないから渚のノリに付き合ってやって、渚に近寄って、渚のポケットに自分の手を潜り込ませる。
すぐに指先に何かが触れた。
でもそれが何かを悟る前に、不意に渚に強引に抱き寄せられた。