可愛げのないあたしと、キスフレンドなあいつ。
背伸びしてクローゼットの上段に手を伸ばして、ウィッグを保管してあるケースを取り出した。
いかにもギャル臭い、メッシュ入りのかなり明るめなアッシュ系とかゴールド系ブラウンの派手なウィッグばかりの中に、ひとつだけ単色のオールウィッグがあった。
あたしの地毛よりだいぶ長くて、胸下まで届くくらいのロングタイプで、色はマロンブラウン。
明るめだけどやわらかい色味で、自然なゆる巻きのウェーブがかかっててきれいめっていうか、ふわ系で可愛い感じ。
軽く合わせて見ると、さっき選んだ服とも相性がよかった。
これを装着して、ババア系じゃないフツウの下着を付けて。
いつもすっぴんの顔にメイクもすれば大丈夫なはず。
「………どうせ渚には分からないよ」
鏡の中の自分に言ってやる。
これはゲーム。いつものキスみたいな、渚とのくだらない遊びだ。
事前にショッピングに付き合ってまで、渚があたしをHRデーに連れ出そうとするなら、それに乗ってあげてもいい。
------------もし渚があたしを見つけられなかったら、そのまま帰っちゃえばいいだけなんだから。
我ながら言い訳くさいと思ったことには気付かぬフリして。早々に携帯のアラームをセットして、ろくに問題集も解かないままベッドに入った。
でも目が冴えてなかなか寝付けない。
教室の妙に熱っぽい空気に、あたしも当てられていたらしい。
3.14
3.1415926535897、
3.14159265358979323846264338327950288419716………。
深呼吸をするように唱えても、無限の数字はこの晩、なかなかあたしを眠りへとは誘ってはくれなかった。