可愛げのないあたしと、キスフレンドなあいつ。

駅に戻って、渚に言われるままに電車に乗って。

車両に誰も知り合いがいないことを確認すると、渚が馬鹿みたいに笑い出した。



「……無理。もう我慢出来ねぇ」


渚の端正な顔がくしゃくしゃになっていく。


「見たか、あいつ。あのすげえ悔しそうな顔」
「……佐々木のヤツ、今から渚とあたしがヤりにいくとか思い込んだっぽいじゃん?」


あたしが毒を吐くと、渚が笑いを止めてあたしに向いてきた。


「何?」
「や、」



渚は上から下まであたしの全身に視線を巡らせて、確認するようにあたしの顔をじっと見る。

それからどこかこそばゆそうに目を細めた。



「やっぱニカだって思って」
「………ニカじゃねぇし」

「崎谷仁花だろ?」



サキヤヒトカ。



久し振りに、他人の口から自分のフルネームを聞いた気がする。

自分の名前に他人の温度を感じるのはほんとうに久し振りで。うまく反応出来なかった。



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