可愛げのないあたしと、キスフレンドなあいつ。
手は届かない
【デートじゃない】
「おまえ、化けたな」
電車の扉際にふたりで並んで立ってると。
渚は不意に『よく出来ました』といわんばかりにぽんぽん頭をたたいてきた。あたしの方が見ていてむず痒くなるような、上機嫌な顔だ。
「……化けきれてなかったんじゃん?渚、すぐ見てあたしだって気付いちゃったんでしょ?」
これはほんと不本意だった。
渚が選んだのとは違う服着て、ウィッグ装着メイク完備のフル装備で来たのに、自分で思ってたよりいたずらの完成度が低かったみたい。
もっと渚で遊んでやるつもりだったのに、あっさり見破られてちょっと悔しかった。
「渚、よくわかったよね。佐々木とか、完全騙されてたのに」
渚は比べられるのも心外だとばかりに言い返してくる。
「あんなのと一緒にすんな。ってか今まで何回おまえとキスしてると思ってんだよ。ちょっと化粧とか着るもんいじったくらいで俺がおまえの顔が分からなくなるわけねぇだろ」
渚はしれっと言い放つ。
たしかにキスって接近戦だから、嫌でも相手がどういう顔してるのとかキスするたびに間近で見て覚えることになるけれど。
「………山根さん並みにもっと化粧厚くしときゃよかった」
負け惜しみみたいなあたしの言葉に、渚は呆れた顔をする。