可愛げのないあたしと、キスフレンドなあいつ。
今日は『LiLiCA』のワンピどころか、靴もバッグもこの前一緒に選んだものじゃなかった。
渚が渡してきたネックレスすらしていない。
そのことに王様はもっと不機嫌な顔をすると思っていたのに、あたしの姿を見たときから今に至るまで、渚の顔には非難めいたものがなかった。ちょっと肩透かしを食らった気分だった。
「その程度でキレるとか、どんだけ人様のこと子供扱いだよ、おまえ」
「けど渚って、もっと女のこと、自分の思い通りにしたいタイプだと思ってたから」
すくなくともうちのババアは、あたしが自分好みの着せ替え人形にならなくなったことに、怒り狂っていた。ババアほどじゃないにしろ、王様もそういう自分中心なとこがあると思ってたのに。
渚はそんなことはささいなことだと言わんばかりに笑い飛ばしてくる。
「お前が大人しく俺の言うこと聞くような女じゃないってことくらい、こっちは織り込み済みなんだよ。嫌がらせみたいな死ぬほどだっせぇジャージ着てくるかその逆みたいな恰好してくるか、そういう極端なことやらかすんだろなってのは想定済みだっての」
あたしのやりそうなことなんてお見通しだといわんばかりに、渚は優越感みたいなものをちらつかせた顔をする。
なんだか一緒に新宿に買い物に行ったあの時点で、すでにあたしは渚の手のひらで踊らされてたようで悔しい。
「………巣鴨のバアサン風とか、渚が一緒に歩きたくなくなるくらい、クソださい恰好でこればよかった」
「それって負け惜しみ?」
「うっさい。ってか別に勝負とかしてないし」
あたしの言葉に、渚がおかしそうにくつくつ笑ってくるから、ほんと気に食わない。
「……何笑ってんの?マジ渚、鬱陶しいんですけど」
あたしが悪態ついても、渚はまるで勝者の余裕みたいな上機嫌な顔してる。
「ま、あのときおまえが買った服、わりと良かったし。折角選んでやったんだから、あのワンピースはまた別のときにでも着て来いよ」
-----------私服で渚と会うとか、どういう状況だよ。
そうつっこんでやりたいけど、それを言ったらますます渚のペースにされそうで黙ってた。