可愛げのないあたしと、キスフレンドなあいつ。
「けどおまえ、ホントにまともな私服も持ってたんだな」
渚がそういってちらっと横目であたしを見てくる。
渚の視線が、一瞬あたしの胸元に走った気がして、体に電気が流されたみたいにチリッと痺れた。じわりと、耳朶に自分の体温を感じる。
「つぅかあいつ。佐々木さ、すげえ食いつきだったな。めっちゃおまえのおっぱい見まくってたし」
あたしのささいな変化に気付きもせず、渚がそういってからかってくる。
自分から「見てください」といわんばかりに肩も胸元も剥き出しにした、オフショルのブラウスなんて選んで着てきたくせに。
電車の中でサラリーマンのおっさんにじろじろ見られたり、さっきの広間で佐々木たちから露骨に見られても、ちょっと不快に思うだけで動揺なんてしなかったのに。
渚に一瞬見られたかと思っただけで、妙な緊張をする。なんだか変な気分だった。
「……ってかあいつ、胸見まくりながら『かわいい』って言って、あたしじゃなくて胸に『一緒に遊ばない?』って話しかけてた」
あたしが揶揄を返すと、肩を震わせた渚がこらえきれずに吹き出した。
「……口説いてる女にガン見してたことバレてるとか、痛すぎだろあいつ」
「渚は見ないの?」
あたしの言葉に、渚の笑いは一瞬で凍りついた。
でも渚以上にテンパってたのはあたしの方だ。
あたしは動揺してるときほど、あえてそれを隠すようにとんでもないことを言ってしまうらしい。
渚はいつもお小言をいうときの渋い顔になる。
「………だから。おまえ意味わかんねぇ煽りやめろ。オンナがそういうネタでぐいぐい来るな」
「以外に繊細なんだ?」
「おまえがガサツなんだよ。……まあでも。ニセモノって分かってても、な」
渚はそう言って、ふたたびちらりと意味ありげに横目であたしを見てくる。
「……おまえ、今日すげぇ盛りまくってんのな」