可愛げのないあたしと、キスフレンドなあいつ。

水族館は平日ということもあって、チケット売り場は並ばなくてもすぐに券が買えてあっという間に入館出来た。

ひともまばらで、赤ちゃんとかちいさな子供を連れてる家族と、カップルで来てる人の姿がちらほら見えるだけ。




----------水族館なんて、何歳ぶりだろう。




ここの水族館にも昔一度だけ来たことがあったけど、たしか幼稚園の頃とかで、小さすぎてほとんど記憶に残ってない。
家族で来たはずなのに、誰の顔も覚えてない。

それだけあたしにとって面白くもなんともない、思い出に残らない一日だったんだろう。





「ニカ」


不意に渚に呼ばれて視線を上げる。

照明の落ちた薄暗い通路を抜けると、いきなりおおきな水槽が現れた。




そこには海の中をそのまま切り取ったような景色があった。




万華鏡を覗いたときのように、せわしなく形を変え続けるちいさな魚たちの群れ。

その合間を縫うように、ゆったりと泳ぐエイ。

流星のようになめらかな線を描いてめぐっていく無数の魚たち。

首を反らして見上げたところで、きらめくように揺れる水面。




おおきな水槽に集約された海の世界に、ただ圧倒される。





「……きれい」


水族館に来たひとの、馬鹿のひとつ覚えみたいな感嘆の言葉。
それがあたしの口からも無意識にこぼれると、渚が笑う気配がした。


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