可愛げのないあたしと、キスフレンドなあいつ。


「撮るんだろ?ほら笑えって」


そういって渚はあたしにレンズを向けてくる。


「ちょっとっ、何考えてんの、勝手に撮らないで」

「いいだろ。ブスな顔すんなよ」

「……っ馬鹿じゃない?リア先輩に撮ったの見られたらどうするつもりなの」



あたしの剣幕に渚の手が止る。



その名前を出さないのは、お互い暗黙の了解だったはずなのに。



渚は煩わしそうに顔を歪めた。



「………撮れっつったり撮るなっていったり、おまえなんなんだよ」



それから不貞腐れたように吐き捨てて、ひとりでふれあいコーナーから出て行ってしまう。







はじめから。今日のこの水族館は、渚がリア先輩とするデートのスライドでしかないってわかってた。

けど谷岡由梨亜の名前さえ出さなければ、今日一日は渚と浮かれたような気分のままでいられたはずなのに。


全部台無しだ。


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