可愛げのないあたしと、キスフレンドなあいつ。
「………おまえさ。これ、2wayになるって、知ってたか?」
渚はあたしに何もツッコまないで、感情を押し殺したような声で淡々と聞いてきた。
あたしが首を振ると、渚はあたしの右手を取ってネックレスを手首に巻き付けてきた。
「付け替えるとブレスレットにもなるんだってさ。……こうやってこっちの留め金にとめるんだよ」
「……ふうん」
静かな声。静かな返事。
ブレスレットを付け終えた渚は、あたしの反応を伺うようにちらりとあたしの顔を見てくる。その目に促されて口を開く。
「………これ、ブレスにしたほうが好きかも」
つけてもらったブレスレットを目の前にかざしながら呟くと、すこし固かった渚の顔がすこしほっとしたように緩んだ。
「……次ぎ行くぞ」
一瞬気まずくなりかけた空気を仕切りなおすように、何事もなかった顔で渚が言う。
誘導されるままに歩いていって、たどり着いたのは海が見えるオープンデッキ。屋外にあるそのベンチに、あたしと渚は腰を下ろした。
イルカショーをやってる奥のブースは人が集まっているけど、このオープンデッキにはあたしたちくらいしかいない。ゆっくり目の前に広がる景色を眺めていられる。
日が高くなって、初夏の強い日差しを浴びた海がますますきらきらと眩しくきらめいている。
潮風はすこし湿り気を帯びて肌にまとわりつくようだけど、不思議と不快な感じはしない。
空も海も風も。
ここには気持ちのいい5月が詰まっている。
あたしの頭は、まだ勝手にインプットを続けてる。