可愛げのないあたしと、キスフレンドなあいつ。
「渚、ありがとう」
海を眺めた後、ふと自分の手首に巻かれたブレスレットを見て思わず呟いていた。
「……水族館とか海とか。ベタすぎだけど、来ると意外にたのしいんだね」
隣で渚の戸惑ったような気配を感じた。
「渚?どうかした?」
「………ニカやっぱ狙ってる?」
「は?ってかニカ言うな」
「………おまえの不意打ち怖ぇな。急になんなんだよ」
渚は片手で顔を覆って、何かわき上がってくるものをこらえるように黙り込んでしまう。
でも気まずくない。やっぱり今日の沈黙は、どこかこそばゆい。
一度離れたはずの手が、ベンチの上でどちらからともなくまた繋がれる。でもなんだかぎこちない。指先がかすかに震えてる。あたしなのか、渚なのか、それとも両方なのかわからないけど。
「………おまえさ、学校でこういうのしねぇの?」
しばらく一緒に潮風に吹かれていると、渚が不意に聞いてきた。
「こいうのって?」
「ダサくねぇマトモな恰好ってこと」
「しないよ。学校にこんなウィッグとか付けてくの、ただの馬鹿でしょ」
「ヅラのことじゃなくて。……勿体ねぇとか思わねぇの?」
渚の声は、いつになくマジな感じだ。
「周りの女、いかに自分良く見せようとかカレシ作ろうとかそういうことしてんのに、あえてブスなフリとかバカバカしいとか思わねぇの?」
「べつにあえてじゃないし」
「だから。いい加減その手の嫌味やめろって。……さっきの佐々木たち見ただろ?おまえその気になれば、『根暗ぼっち』どころかクラスにハーレム築けるじゃん」
「それイヤすぎんですけど。佐々木でハーレムとかしたくねぇし」
あたしは笑い飛ばすけど、渚は同調してくれない。
もどかしそうな顔して詰め寄ってくる。