可愛げのないあたしと、キスフレンドなあいつ。
「この傷、なんでDVだって思ったの?」
あたしが聞くと、渚はすこしばつの悪そうな顔をする。
「………おまえが中3のときボコボコにされたみたいだって、話聞いた」
渚はたぶんあたしの『何か』を知ってるんじゃないかって薄々思ってた。でも。
「ふぅん。よく知ってるね」
平静を装いつつも、軽く衝撃だった。
額の傷が出来たのは、あたしがババアの愛玩ペットでも専用の着せ替え人形でもなくなった日。
全身腫れと痣でいっぱいになったあたしは、隠蔽を図ったババアに無理やり学校を休まされ続け、しばらく家に閉じ込められた。
それでも高校にあがるまで面識のなかった渚に断片的にでもDVのことが知られてるくらいなんだから、当時のクラスメイトとか担任にはあたしの身に何か起きたことは薄々勘付かれていたのかも知れない。
……きっと知られたくないことを、好奇心一杯の下世話な人の目から隠そうとしても無駄なことなんだろう。
山根があたしの母親が白鳥えりこだって知ってたみたいに、噂なんてあたしが預かり知らないほんのちいさな隙間から漏れて簡単に広まってしまうもので。
たとえババアの持ち家があった高級住宅地から引っ越して、身を潜めるようにひとりでひっそりと離れた場所で生活しはじめても、あたしの中学時代のことは完全に隠し通せることじゃなかったんだろう。
「中3とき、おまえ登校拒否ってしばらく学校来なかったんだってな。……何かあったんだろ?これって、そのときの痕なんじゃねぇの?」
渚はそう言った後で、いっそう表情を固くして聞いてきた。
「……付き合ってた男とこじれたとか?」
ババアのことを思い出していたあたしの脳裏に一瞬聖人の顔が過ぎって、ひやりとした。
渚はいったい、あたしの何をどこまで知っているんだろう。