可愛げのないあたしと、キスフレンドなあいつ。
何も聞こえない。
何も見えない。
ただ重なってくる渚のくちびるだけを感じている。
何もいらない。
何もほしくない。
ただ今はこのままでいたい。そんなことを願ってしまう、完璧な世界。
渚のキスが生み出したのは、間違いなく、なにもかも満たしきったふたりだけのちいさな世界だった。
その世界はあまりにも儚くてもろくて。
視線ひとつで、呼吸ひとつで、すべてが壊れてしまいだから。
あたしは息を潜めて目を閉じたままでいる。
今あたしが欲しいと思うのはスリルなんかじゃなかった。
もう渚とキスフレンドじゃいられなくなるかもしれない。
それでもいいから今このときだけはこのまま渚とキスしていたかった。
「………渚。もっとキスしたい」
渚のくちびるが離れると、目を閉じたまま言っていた。
はじめてこんな甘い声でねだった。
渚が驚いて息を飲んだ音が鼓膜を揺らす。
「今日のおまえ、素直すぎて怖ぇんだよ。………こういう顔で煽んな、馬鹿」
余裕なさげにすこし苛立った口調で言う渚の声に胸が痺れる。
すべてを渚に任せて、目を閉じたまま渚からもう一度キスされるのを待った。
----------人が永遠を感じるのって、きっとキスを待つなにもかもが満たされたこの瞬間なんだ。
あたしの頭が、今日という日を今この一瞬に焼き付けようとする。