可愛げのないあたしと、キスフレンドなあいつ。
渚はゆっくりと、じれったく思うくらい時間を掛けて再びそっと顔を寄せてきた。
まるであたしが壊してはならない、大切なものであるかのように。
やさしく、ひたすらやさしくくちびるに触れてくれる。
----------あたしはあたしのことなんて、とっくに見切りをつけていたはずなのに。
こんなふうに扱ってもらえると、自分が変われそうな気がしてくる。
自分が大事に出来ずにいる自分をこんなふうにいつくしんで触れてもらえると、無価値だと思っていた自分がなにか特別なものに生まれ変われそうな、そんな気がしてくる。
「渚。……ほんとにありがとう」
目を閉じていた所為なのか。いつもよりすんなりと言葉が口から出ていた。
「あたしさ。なんか。……なんかもう大丈夫かも」
「………なんだよそれ。何勝手に『今日でもう終わりにします』みたいな言い方してんだよ」
すこし不安げに曇る渚の声。
今渚がどんな顔してるのか確かめてみたいのに。もう一度渚が顔を寄せてくる気配がするから、目を開けられない。
----------キスの意味が変わったって、もうかまわない。
今ならババアのこととか、聖人のこととか、中3のときの嫌なこと悪いことをすべて放り出して、ちゃんと歩き出せるかもしれない。
渚とのこの満ち足りたキスを宝物にして、あたしは変われるかもしれない。
本気でそう思えた。
その時だった。
あたしと渚のすぐ傍から、不意にあまりに無粋で聞き慣れた電子音が響いてきた。
思わず目を開ける。鳴り続けているのは、渚のスマホだった。
渚はスマホ見て顔を顰めた。