可愛げのないあたしと、キスフレンドなあいつ。
「………出てあげたら?」
まるでシャボン玉みたいに、あたしと渚を取り巻いていた世界が弾けて消えた。
渚が身動きすら取れずにいる間も、スマホの呼び出し音は鳴り続ける。
まるで渚が誰のものなのか、あたしに知らしめるように。
「愛されてるね。リア先輩、こんな日にまでラブコール?」
無理やり笑い飛ばして、なんでもないフリをすると。渚は怒りも笑いもせずに呟いた。
「………あいつからは掛かってこねぇよ」
渚の声の低さに驚いているうちに、渚がそっと立ち上がって無表情になった。
「電話、由太だよ」
「七瀬?」
「………あいつ駅に着いたんだろ。たぶん今からこっち来る」
リア先輩からじゃなかったということに気が抜けたのも束の間、渚に言われたことに急速に熱が引いていく。
---------名残惜しく思うあたしとは違って、渚は今のちいさな世界を、こんなあっさり放り出してしまえるんだ。
七瀬はちいさい頃からの渚の大事な親友なんだって知ってる。
けど渚の優先順位があたしより先に七瀬由太にあるんだという当たり前なことに、なぜかひどく落胆してる自分に戸惑う。