可愛げのないあたしと、キスフレンドなあいつ。
「なんかよくわかんないけど。……もういいよ、お望み通りレンタルされてきてあげるから」
----------せっかくHRデーに来てよかったと思えていたのに。
渚にあっさり放り出されてしまったことが、屈辱なのかショックなのか、よくわからない感情で心が黒く塗りつぶされていく。
でもそんな気持ちを渚になんて悟られたくないから、いつもの悪い遊びをするときの顔で笑ってやる。
「じゃあね、渚。あたしは七瀬に何かおごらせてるから、渚はひとり寂しく観光でもしてて?七瀬にはくらげのとこで待ってるって言っといてね」
未練なんて欠片もありませんって態度で背中を向けて、くらげのブースに向かおうとすると。渚に腕を強く掴まれて引き止められる。渚は見たこともないくらい怖い顔をする。
「………何?いきなり痛いんですけど」
そんな顔するくらいなら、あたしの了解も得ないで勝手に決めなきゃいいのに。
あたしといる時間を勝手に七瀬に譲ったりしなきゃいいのに。
「ねえ、離してくんない?」
「おまえさ。誰でもいいのかよ」
渚のくせに自信のなさそうな顔。
放り出されるくらいなら、もっとこの顔を歪ませてやりたい。あたしにそんなゲスなこと思わせてるのは渚のせいなのに。
渚の方が歯痒そうな、傷つけられたような顔してるとか、卑怯だ。
「……そうだよ。こっからは七瀬のターンなんでしょ?……だったらこれも七瀬に貸し出さないといけないからね?」
いつものどうしようもないゲスなあたしらしく、渚の手を引き剥がして空っぽになった右手をひらひらさせながら挑発するように言ってやる。
「こんな手くらい、いくらでも触らせるし。七瀬の好きにさせるから」
渚の顔は見ないまま、あたしはひとり館内に駆けて行った。