可愛げのないあたしと、キスフレンドなあいつ。




「………よくあたしだって、わかったね」


ベンチに座ってゆっくり時間を掛けて呼吸を整えた後。もう大丈夫だという意思表示も兼ねて、あたしから七瀬に話しかけていた。


「うん?だって、渚にクラゲブースにいるって聞いてたし」
「………これでもあたし、一応変装したつもりだったんだけど」

「ああ。だから朝点呼取って渚と崎谷さんたちが行った後、すごかったよ。崎谷さんのことで話題が持ちきりで」
「………全然バレバレだったってこと?」


あたしの言葉に、七瀬が苦笑する。


「ううん。見破られてなかったよ。あの後、誰かが『あの子はモデルやってる子だ』とか言い出してね」

「なにそれ。どこ情報?」

「なんか加藤さんが『あの顔、昔どっかの雑誌で見たことある気がする』って言い張ってさ。陸人がノリで『俺グラビアで見たことあるかも』なんて言い出すから、アイドル説とか芸能人説とか根拠のないデマばっか飛び交って。………渚がわざわざ呼びつけて得意げに連れてたくらいなんだから、きっとそれなりにステイタスになるような女の子に違いないって、みんな謎の女の子の正体に興味津々だったよ」


あたしの反応を窺うように七瀬はちらりとあたしを見てくるけど、なんともリアクションの取り辛い話だ。
七瀬のいうことは多少大げさなんだろうけど、それでも思った以上に話題になってしまったっぽかった。


「………でも、七瀬くんはあたしだってわかってたんだ?」


目を見ながら聞くと、七瀬はわたしの問いをうやむやにするように曖昧に笑った。

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