可愛げのないあたしと、キスフレンドなあいつ。
水原愛さん
【水原愛さん】
2人掛けのテーブル席の天板に、あふれんばかりにお皿が並んでいた。
名物だというしらすがたっぷり乗った丼物に、かめの形をしたパン、たっぷりのフライに、甘ったるい匂いを放っているチュロスと、バニラアイスの乗っかったソーダ。
相変わらずひどい食い合わせ。七瀬はこれを全部ひとりで食べるつもりみたいだ。
「え、崎谷さん、お昼それだけ?」
アイスティーとマカロニサラダだけを頼んだあたしを見て、七瀬は驚いた顔をする。もともと小食な方だし。それに気分が悪くなった後だから、なんとなく食欲もなかった。
「これだけあれば十分だよ」
「おかしいでしょ。いつもそんなちょっとしか食べないから貧血になんてなるんだよ」
「大食いの七瀬くん基準で考えないでもらえる?逆にあたしが七瀬くんくらい食べたら気分悪くなるし」
「俺と同じだけ食べろなんて言わないよ。でも崎谷さんのは少なすぎ。……これあげるから食べなよ」
そういって七瀬があたしにお砂糖がたっぷりまぶされたチュロスを差し向けてくる。
「いい。いらない」
「でもそんなんじゃ、またひっくり返っちゃうよ」
「返らないし。いいってば」
「いいから食べなよ。……それともこっちのパンの方がいい?」
「いらないってば。なんでそんなお節介しようとするの」
「だって崎谷さんの細さって、可憐なの通り越して危なっかしいっていうか。放っておけなくなるよ」
「大きなお世話!」
「誰も貶してなんかないだろ、そんな怒らないでよ」
チュロスを渡されたり押し返したりをしながら、そんなしょうもないやりとりを続けていると。
「ねー、おねえちゃん、なんでたべてあげないの?」
あたしたちの席を通りかかったちいさな女の子が、ふしぎそうな顔をしてきいてきた。