可愛げのないあたしと、キスフレンドなあいつ。

「-------こら、リナちゃん。だめでしょっ」
「ねえ、なんで?」


すこし離れた席から駆け寄ってくる母親の制止も聞かず、リナと呼ばれたおませな女の子はあたしたちに何度も「どうして」と聞いてくる。


「なんでいやなの?おにいちゃんのことがきらいだからたべてあげないの?そんなの、おにいちゃんがかわいそうだよっ!」


不安そうな顔して聞いてくる女の子に、七瀬はいかにも子供受けよさそうな笑顔を見せた後。


「違うよ。ちゃんと仲良しだよ」


そう言って、手に持っていたチュロスをあたしの口元に差し向けてきた。


「ほんとに?」
「うん、本当。おにいちゃんたちね、今からこれ一緒に食べようとしてるとこなんだ。ね、崎谷さん?」



そういった七瀬の目に促され。女の子の期待するようなまなざしにも負けて。

やらなければ収まりがつかなそうな雰囲気に押されたあたしは、七瀬に「あーん」をされる恰好で差し出されたチュロスにかじりついた。



-----------何これ。バカップルみたい。



あたしはそう思ったけど、あたしたちを見守っていた女の子は「よかった」といわんばかりに幼い顔を綻ばせて、なぜだかひどくうれしそうに母親のもとへとかけていった。

その子の母親に遠巻きから「すみません」って何度もぺこぺこ頭を下げられつつ、かじったチュロスを咀嚼するけど。

味を感じない。口の中はざらざらした砂糖の食感しかしない。


< 167 / 306 >

この作品をシェア

pagetop