可愛げのないあたしと、キスフレンドなあいつ。
「………七瀬くんも結構好みベタなんだね。メイドって萌え系の中でもド定番すぎてつまらなくない?」
「そう?逆にそれがいいんだと思うけど」
「ふぅん」
「崎谷さんも着てみたかったら、渚の家にメイド服あるよ。パーティー衣装系の安っぽいのじゃなくて、結構本格的なヤツ」
七瀬の口からあまりにもその名前が自然に出てきたから、あたしも何も考えずに答えていた。
「へえ。あの人、クールな顔してそういう趣味があるんだ」
「え?」
「彼女とお楽しみ用の衣装なんでしょ?リア先輩、美人で何着ても似合いそうだし。あの人先輩と『メイド姿で俺にご奉仕しろ』的なエロいことして遊んでるのかな?」
「……ッ………さ、崎谷さんっ!!」
あたしのゲスさにまだあまり免疫のない七瀬が、あたしの冗談に顔を真っ赤にして怒った顔をする。
「崎谷さんみたいな女の子が、こんなとこで、素のテンションで、すごいこと言わないでもらえるかな……ッ!」
「何が?……そんな大騒ぎするようなネタ?べつにいまどき高校生でも彼女とコスプレエッチくらいする人いるでしょ」
「---------もうっ崎谷さんッ!」
ヘタな女子よりよっぽど潔癖で乙女な反応する七瀬が可愛くて、わざとゲスい言い方して七瀬の反応を楽しんでいた。
「七瀬くんも彼女に着てもらいたい系?メイド服好きなんでしょ?」
「………崎谷さんがいうような変な意味じゃなかったらねっ」
あたしが絡み続けると、七瀬は自棄みたいに言い放った。
「そりゃ普通にいいなって思ってる女の子が着たとこは、見てみたいなくらいは思いますよっ」
清廉そうな見た目通り、七瀬の解答はとても健全だ。
「っていうか。渚の名誉のために言わせてもらうけど、渚の家にあるのは渚のじゃなくて、渚のお姉さんの持ち物だから。渚に崎谷さんが言うような趣味があるとか誤解しないであげてよっ」
そういって七瀬は気持ちを静めるように、フロートが溶けかかったソーダを一気に飲み干した。
……そのテンパり具合が、やっぱ可愛い。