可愛げのないあたしと、キスフレンドなあいつ。

「………なにそれ」


七瀬の真剣さに気圧されしそうになって、はぐらかすようにしか言えない。


「今言った通りだよ。俺、崎谷さんが好きだ」


うやむやにするどころか、はっきりと宣言されてしまい、あたしはさらにうろたえた。七瀬はなおも畳み掛けてくる。


「崎谷さん、俺じゃダメなの?」
「……物好き?………こんな落ちぶれたのがいいわけ?」


七瀬はきっぱりを首を振った。


「落ちぶれてなんかないよ。崎谷さん他の誰よりきれいだし。……今日は私服、すごい似合ってて特にいいと思う」
「七瀬くん、こういうの好みなの?」
「………ふつうに、すごくかわいいと思うよ」


七瀬はすこし顔を赤くしている。それでも必死にあたしに伝えようとしてる。


「なんで学校だとわざとダサい恰好して、前髪で顔隠してるのかわからないし、すごく勿体無いと思ってたけど。俺だけが崎谷さんの素顔に気付いてるってこと、ちょっと気分がよかった」
「………前はマシだったかもしれないけど。でも今のあたし、ただの根暗ぼっちだよ?性格最悪なの、よく知ってるでしょ」


あたしの皮肉を、七瀬は一蹴する。


「いいよ、べつに。渚じゃなくて俺を選んでくれるなら。『根暗ぼっち』のままでもかまわない」
「…………なにそれ。本気で言ってるの?」

「そうだよ。………俺ね。自分でも嫌になるくらい小心者で。いつも人の顔色伺ってばかりだから、渚にすごい憧れてて。周りにいる男も女の子もみんな渚のことだ大好きで、俺は渚になにひとつ敵わなかったけど、でも今まではそれでいいんだ、それがいいんだって思ってた」



七瀬のいわんとすることは、なんとなく理解できる。


自分が足元に及ばないような、そんな絶対的な存在を前にしたとき。その人と肩を並べられるように死に物狂いの努力をするより、負けを認めてその人に依存してしまった方が楽だ。

そんな感情は、あたしにも身に覚えがある。




「負けっぱなしでよかったのに。けど渚にも譲りたくない。………こんなの、初めてなんだ」


七瀬はあたしを見て、はっきりと言う。

依存してダメになったあたしと違って、この人はちゃんと自分で殻を破ろうとしてる。
繊細で弱いヤツだと思ってたのに、七瀬はあたしよりもずっと強いのかもしれない。


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