可愛げのないあたしと、キスフレンドなあいつ。
「俺、渚みたいに強くなりたいって思ってて、でもなれなくて。高校で、ひとりぼっちでいても全然平気な顔してる崎谷さん見て。渚と同じくらいかっこいいって思った。けど俺は崎谷さんみたいになりたいんじゃなくて、崎谷さんが欲しい」
「………あたしは七瀬くんが思ってくれるほど上等な人間じゃないよ」
「崎谷さんが自分のことどう思ってたってかまわない。……俺のことは迷惑?」
本気の目だ。
七瀬は冗談でも罰ゲームでもなく、本気であたしなんかがいいなんて言っている。
なんでよりによってあたしなんだろ。
山根とかのほうがよっぽどかわいいのに。
「あたしと付き合ったりしたら、それこそ佐々木から馬鹿にされまくるの目に見えてんじゃん?」
「べつに佐々木のことなんて気にしない。誰の目もどうだっていい。……だから俺がアリなのかナシなのか、それだけ答えて」
罰ゲームであたしにキスしてもらおうとしてたときの七瀬の言葉なら、信じられなかったと思う。
でも七瀬は変わった。変わろうとしてる。
だから思う。七瀬はきっとあたしにすごくやさしくしてくれるだろうって。
あたしが口の悪いへそ曲がりだってわかってて、それでもあたしがいいだなんて言ってくれるくらい、度量もあるんだから。
もし七瀬と付き合ったら、何の障害もなくて。穏やかで。
中学のときには味わえなかった、満たされた学校生活を送れるのかもしれない。
そういうのをしあわせっていうんだろう。
けど。
あたしの視界の端っこには、緑色のちいさな島が映る。
「………ごめん」
島から目を外せないまま。たぶん今頃ひとりであそこを散策してるだろうヤツのことを意識から外せないまま、無意識に断りの言葉があたしの口からこぼれていた。
「それは。渚のことが好きだから………?」
「………七瀬くんが、あたしの知ってる人によく似てるからだよ」
七瀬の顔を見れないまま、あたしは言葉を続ける。