可愛げのないあたしと、キスフレンドなあいつ。

「………七瀬くんみたいにすごく優しくて繊細で、あたしの味方でいてくれた人のこと、あたしがぼろぼろにしちゃったの。あたしね、そういうクズなんだ」
「でも俺はその人じゃないし、俺は崎谷さんのことクズだとは思わない」

「それは七瀬くんがあたしのことよく知らないからだよ」
「じゃあ教えて。崎谷さんのことが知りたい」

「………七瀬くん、どうかしてる。ただ渚と張り合いたいだけなんでしょ?」
「その渚には、由梨ちゃんがいるんだよ……?」



----------そんなこと、言われなくたって知ってる。



「あたしと渚はそもそもそういう関係じゃないし。ここでリア先輩のこと引き合いに出すとか、意味ないよ」
「だったらキスさせて」


七瀬は真顔のまま言う。


「俺。日直当番のとき、渚と崎谷さんが教室でキスしてるの見たことあるんだ」



教室では何度も渚とキスしたことがあるけど。スリルを楽しむだけで、誰かに目撃されたことがあったなんて、気付きもしなかった。



「渚がキスしてる相手が崎谷さんだったのも驚いたけど。渚のヤツ、由梨ちゃんと付き合ってるくせになんでってすごい腹が立った」
「………あたしとは、ただの遊びだから」

「だったら俺と遊ぶのだっていいでしょ。………はじめは遊びだっていい。俺のこと好きじゃなくても」
「待って……っ」


七瀬が一歩踏み出して来たから、あたしは焦って一歩退いていた。


「俺とは出来ない?……それってやっぱほんとは渚だけが崎谷さんの特別だから?」
「違う。………だって七瀬くん、まだキスしたことないんでしょ?」



馬鹿にしてるように聞こえないように、できるだけ声を抑えて聞いていた。


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