可愛げのないあたしと、キスフレンドなあいつ。
10 ---

額に、なにか体温のようなものを感じていた。

その感触がちょっとくすぐったいけど、目を開けることが出来ない。何も見えない代わりに、話し声が聞こえてくる。


-----渚、崎谷さんのその傷って、
-----見んな。……俺だってよく知らねぇよ。こいつ秘密主義だからな。



渚と、七瀬の声だ。そうとわかるのに、やっぱり目を開けることが出来ない。



-----なんか、こいつ、昔すげぇキツい思いしたみたいだから。コレのことは、こいつが話すまではもう何も聞かねぇつもり。



声と一緒に、あたしの額を指が撫でる感触がする。



-----渚も、愛さんから中学時代の崎谷さんのこと、何か聞いたんだ?
-----おまえもな、なんか知ってんだろ。……出来たらこいつにはあんま聞かないでやれよ。

-----わかってる。……けどさ。渚、ずるいよ。俺はちゃんと午後から合流したのに。こんなタイミングで出てくるとか、フェアじゃない。

-----悪いな。でも正々堂々とか、俺にはやっぱ無理。『お互い公平に』なんて約束守れないし、俺はさっきからおまえのこと出し抜いてやることばっか考えてる。



七瀬のため息が、耳を掠めた。

< 188 / 306 >

この作品をシェア

pagetop