可愛げのないあたしと、キスフレンドなあいつ。
「立てるか?」
「………たぶん」
「もし歩くの無理なら負ぶってやるよ」
そういってあたしを引っ張り上げる。力が強すぎて、掴まれた腕が痛い。渚はふらつくあたしを見かねてか、支えるように肩を抱きながら言ってきた。
「………由太の方に行きたいか」
オープンデッキから出口に向かう階段を下りつつ、渚は淡々と聞いてくる。
七瀬からの告白を撥ねつけた後で、正直あのまま七瀬とどうやって顔を合わせていればいいのか分からなかった。でもこんな逃げるように七瀬のことを置いていくなんて、苦い気持ちで口の中がもっとざらざらしてくる。
「今のおまえ、頭ん中、由太になってんだろ。そういう顔してる」
「違う」
「逃した魚が惜しくなったか」
「………違うってば」
「だったらおまえ、さっき何由太に押し切られそうになってたんだよ」
渚は責めるように、横目であたしの口元を睨みつけてくる。
「キスされんの、べつに死ぬほどイヤだったわけじゃないって、どういう意味だ。やっぱ由太のこと、満更じゃなかったって意味か?」
「………リア先輩、なんか今ヤバいんだって?」
「話逸らすな」
「そっちこそ」
お互いむっとしながら、それでも歩き続けているうちに、館外へと続くゲートにたどり着き。あたしたちは来たとき通った大通りをそのまま駅に向かって戻っていく。
「何とか言ったら?今日、もしかしてモテ男気取りで浮気デートでも楽しんでるつもりだった?」
「違ぇし。……由梨亜のことは、もう俺は何もしてやれねぇよ」
「………ふぅん。渚がそんな冷たい男だって思わなかった。がっかり」
わざとそんな嫌味な言い方をすれば、渚はあたしを支えていた腕を解いて立ち止まった。
「じゃあおまえは、俺が由梨亜のとこ行けば満足なのかよ」
「だって。放っておくわけにもいかないでしょ。……ああいう普段おとなしくてやさしげな人って、いざってときになにやらかすかわからないよ。とりかえしのつかないことになったらどうするの。渚、死ぬほど後悔するよ」
「……それってさ、おまえの経験則?」
「そうだよ。………だからやっぱ、あたしもう無理」