可愛げのないあたしと、キスフレンドなあいつ。
お前が好き
【おまえが好き】
折角高校に入って一からやり直したばかりだというのに。
完全に失敗だ。大失敗。
新しい学校では誰にも馴染まず、誰かに傷つけられることも誰かを傷つけることもなく、いろんな感情から切り離された場所にいるつもりだったのに。
まだ入学して二ヵ月だっていうのに、あたしはもう躓いてしまっている。
ただ機械のように勉強だけをしまくる『根暗ぼっち』を貫くはずだったのに、渚と係わったせいであたしの心は簡単にコントロールを失っている。
「……もうこないでって言ってるでしょ」
後ろをついてくる渚に向かって言ってやると、渚はしれっと言い返してくる。
「駅、こっちだろ」
「じゃあもうすこし離れて歩いて」
「ってか、こっちには一方的におまえの言うことだけを聞いてやる義理なんかねぇんだよ」
「いいからこないで!」
「だったらすこしは俺の話も聞け」
「お断りします……ッ」
あたしが語勢を強めると、渚が顔を険しくする。
「いい加減にしろよ、おまえ。自分の言いたいことだけ言って何キレてんだよ。言い逃げすんのか」
「こないで、近寄らないで!………やだっていってるでしょっ」
あたしたちが言い合いをしていると。
これから水族館へ向かおうとしているのか、駅の方から腕を組んで歩いてきたカップルが、すれ違い様に興味深々な顔してあたしたちを見てきた。
その無遠慮な視線を感じてか、渚はあたしを冷やかすように言ってくる。
「落ち着けよ。じゃねぇと痴話ゲンカしてるようにしか見えねぇぞ」