可愛げのないあたしと、キスフレンドなあいつ。
あたしなんて、彼氏でもないヤツと平気でキスしてるようなクズだし。
自分なんて堕ちるとこまで堕ちてしまえばいいんだって、よくそんなこと思ってたけど。
あたしは自分の体を粗末に扱われて平気でいられるほど、ほんとは全然達観できてなかった。
たとえ相手が渚でも、たった一瞬でも。
自分の体の女の子である部分を、こんな冗談みたいなテンションで男に触られたら、こんなに気持ちがめちゃくちゃにされるんだって。そんな自分の脆さにショックを受けていた。たまらない気持ちだった。
「………おまえがビッチなんだか純情なんだか、大胆なんだか繊細なんだか、俺にはさっぱりわかんねぇよ。ほんと、面倒くせぇヤツだよな」
言葉とは裏腹に、渚は斜め掛けの自分のバッグからハンカチを取り出すとあたしの顔に押し付けてくる。やり方はすこし荒っぽいけど、清潔な香りのするその青いハンカチは、あたしの涙を吸ってくれる。ハンカチ越しに感じる渚の指があたしの涙の筋をたどってくれる。
「俺に触られたのがそんなにショックか?泣くほどイヤ?死ぬほど嫌い?」
ハンカチ越しの渚の指が離れていってしまったから、それが名残おしくて無意識にちいさく首を振っていた。
「それってつまり、触られたことより、どうでもよさそうに適当に触られたのがショックだったってことか?」
すぐには頷けない。
でももし触った相手が渚じゃなかったら、嫌悪感で怒ることはあっても、こんなふうに泣きたい気持ちにはならなかった気がする。
渚はあたしの顔をみてそんなあたしの気持ちを察したかのようにやさしい声で言った。
「おまえさ。遊びだとかキスフレンドだとかそういうんじゃなくて、ちゃんと俺に大事に扱われたいのか?だったらそう言えよ。おまえのこと大事にしてやるし、甘やかしてやるから」
聞いたこともないくらいのその声の甘さに、あたしの涙は一瞬で引っ込む。
「だから俺がいいって言え。俺のことが好きだって」