可愛げのないあたしと、キスフレンドなあいつ。
11 --- 望まぬ再会
【猶予】
江ノ島の大通りで抱き締めあった後。
あたしと渚はどちらからともなく駅に向かって歩き出した。そしてそのまま停車中の電車に乗った。まだ帰るには早い時間だったけど、これからまたどこかへ行こうと思えるような気分じゃなかった。
渚も同じ気持ちなのか、車窓の外に視線を向けたっきり無言のままでいる。あたしもなんだか体じゅうに渚の体温の余韻みたいなものが巡っていて、気安く会話をする気分になれなかった。
JRに乗り換えてしばらくしたときだった。
どうにかふたり並んで座席に座ることが出来ると、渚は膝に置いたバッグの中からいびつに膨らんだビニール袋を取り出してあたしの手の中に放ってきた。
そのビニール袋には、さっき行ったばかりの水族館の名前がプリントされている。
「なにこれ。………あたしに?」
渚は浅く頷く。その視線に促されて、見るからに土産ものらしいパッケージの袋の中に手を突っ込み中身を取り出してみると。出てきたのはぱかーんと大きく口を開けたサメのぬいぐるみだった。
「…………なんでサメ?」
「意外とかわいい顔してんだろ」
「………水族館モノでかわいさ求めるなら、ペンギンとかイルカとかカクレクマノミとか。もっとほかにあったんじゃないの?」
渚のセンスを疑ってちょっと引き気味に言ってやると、渚はあたしの手の中のサメを指で弾きながら意味の分からないことを言い出す。
「けどこれが一番ニカっぽかったから」