可愛げのないあたしと、キスフレンドなあいつ。

「渚?」
「………おまえな。誘い文句かよ、それ」
「ちょ、……痛いってッ」


渚はあたしの頭を小突きながら忌々しそうに吐き捨てる。


「おまえ中学ンときもそういう感じだったんだろ」
「は?」

「空気読まないっていうか、読めてないっていうか。そんなんだからハブられたんだろ」
「……大きなお世話なんですけど。なんで渚にそんなこと言われなくちゃ……」

「お前が馬鹿すぎだからだろ。自分に告ってきた男を親のいねぇ家に招き入れるって、男なら100%ゴーサインだって思うっての。おまえ鈍いだとかって次元じゃなくてただの無神経馬鹿だろ。勉強出来ても人として全然賢くねぇんだよ」

「つまり渚は我慢出来なそうなくらい、あたしとヤりたいってこと……?」
「……………………小悪魔通り越して悪魔だな、コイツ」


渚はいろんな感情を堪えるようにぎゅっと唇を噛み締めると。お腹の中に溜まったものを吐き出すように深くため息をついて顔を上げた。


「決めた。もうおまえとキスしねぇわ」


渚からの、突然のキスフレンド卒業宣言。


思ったよりもそれを淡々と聞き入れている自分にちょっと驚く。なんだか渚との関係が変わっていくことを、今よりずっと前から受け入れていたような、そんな感覚に戸惑いそうになる。


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