可愛げのないあたしと、キスフレンドなあいつ。
「おまえが俺好きだって言うまで、キスお預けな」
「……言わないし」
「心配すんな。ぜってぇ言わせてやるから」
しないって言った傍から、渚はあたしに顔を寄せてくる。
「………今キスしないって言ったばっかじゃん?」
「おまえからキスねだってきたときは別」
そういって渚はエレベーターホールの前でキスをしてきた。この位置じゃ、エントランスホールにいるこのマンションのコンシェルジュに丸見えなのに。
それでもあたしの体は渚のキスに痺れてしまう。
「……あたしねだってないし」
「そういう顔してるっつぅんだよ」
もう一度なんて言わなくても、あたしが欲しがっているのを分かっていたのか、渚はまたキスしてきた。それが終わらないうちにエレベーターが下りてきてしまう。
------もっと渚とキスがしたい。もっと渚と一緒にいたい。
でもダメだってわかってる。
リア先輩のことだってあるんだし。人のことをむちゃくちゃにしたあたしだけが、たのしい恋愛するとかそんなの許されるわけない。そうわかってても、すごい磁力で渚に心を持っていかれそうになる。
もう過去のことなんてどうでもいいじゃんって思いたくなる。
どうせババアにもパパにも、聖人にも真奈美さんにも。成星院の知り合いにだって、会うことはないんだから、あたしの自由にすればいいじゃん。カノジョになって、渚のものにしてもらえばいいじゃん。
そう思うのに。それがいいと思うのに。あたしは渚を引き止めることができない。
「じゃあな。月曜な」
「……うん」
エレベーターに乗り込むと、渚は扉の正面に立った。
「渚、じゃあね」
扉が閉じようとするとき、思わず口走っていた。渚はあたしの言葉に、笑みだけで応えてくれる。扉が閉まりきる寸前まで目が離せなかった。
やっぱまだ一緒にいたかった。