可愛げのないあたしと、キスフレンドなあいつ。

エレベーターの扉が開いて、あたしの意識が引き戻される。


最上階の角部屋。ファミリー向けの3LDK。ババアがコレクションのように所有している不動産のひとつ。まるで手切れ金のようにあたしに寄越してきた部屋。

お財布から取り出したカードキーをセンサーにかざすと、カチャリと開錠する音が聞こえた。いつものようにドアノブを引っ張る。だけどドアは何かに突っかかって開かない。



「………あれ?」


たしかに今、ロックが解除されたはずなのに。もう一度カードキーをかざして開錠音を確認する。今度はちゃんとドアが開いた。



-----鍵が開いてた……?今富野さん、来てるのかな。



そんなことを思いつつ、玄関を覗く。



「ただいま」


なんとなくいつもの習慣で、そんな言葉を口にする。富野さんが来ているかもしれないから、いつもよりすこし大きめの声で。

でも足元を見ると、玄関にはいつもあたしが学校に履いて行ってるローファーだけが、今朝見たままの形に揃えられていて、ハウスキーピングの富野さんの靴はない。


----もしかしてあたし、今朝鍵を掛け忘れて行っちゃったのかな。

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