可愛げのないあたしと、キスフレンドなあいつ。
歪な愛情
【歪な愛情】
「そうだ。ささやかだけどね、ニカにお土産があるんだ」
そういって聖人はソファのすぐ傍に置かれた大きなスーツケースの中から、有名なコーヒーチェーンのタンブラーを取り出した。
「このコーヒーショップ、発祥がシアトルって知ってるだろ?これはその1号店でしか売ってない限定のタンブラーなんだって。こういうの、ニカは好きだろう?」
そういって聖人はにこやかに笑いながらタンブラーをあたしに差し出してくる。
でもあたしは、聖人があたしの前に現われたことも、まるで何事もなかったような顔をしてあたしに接してくることも信じられなくて呟く。
「………なんで、聖ちゃん……」
あまりにも疑問が多すぎて、混乱したあたしは言葉を飲み込む。
聖人の顔を直視できずに視線を落とすと、聖人の足に靴が嵌っているのが見えた。ジョン・ロブのストレートチップ。洗練されたフォルムのその革靴は昔から聖人のお気に入りで、今日も一部の曇りもなく神経質なまでに美しく磨かれていた。
「ああ、いけない。そういえば靴を脱ぐのを忘れていた。……向こうでの生活に慣れてしまってたから、うっかりしてたよ」
あたしの視線に気付いたようにそういって、聖人は苦笑する。その言葉にどこか白々しさを感じて、背筋がすっと冷たくなる。
なぜなのか、あたしはまるでそうとは知らずに幾重にも巡らされた網の中に自分が入り込んでしまったかのような、そんなおそれを今感じていた。