可愛げのないあたしと、キスフレンドなあいつ。

「会えなかったこのたった1年の間に、君に仲のいいボーイフレンドが出来るなんて思わなかったよ」
「…………なんで、渚のこと、……」
「ニカのことで僕に分からないことなんてあるわけがないだろう?」


ちいさな頃なら。もっと子供の頃なら。

聖人はあたしのことを何でも知っててくれるって安心したのかもしれない。けど聖人のやさしい顔の裏側に、なにか不穏なものが潜んでいることを感じて、あたしは一歩後ずさる。

聖人は笑顔のままそんなあたしに詰め寄る。


「渚くんは素敵な男の子だね。背が高くて、人気者で、ハンサムで、やさしくて。中学のときには水泳をしていて運動も得意みたいだし、スタイルもよくていかにも女の子にモテそうな子だ。……君にボーイフレンドの1人や2人いたって構わないけど、あんな男の子と駅のホームや街中で所構わずキスしていたのはさすがに妬けたな。……それにこの部屋にも出入りしているようだし」

「………そんな。だって、聖ちゃん、ずっとアメリカ、行ってたんでしょ……?」


聖人が知る訳ないのに、なんで渚とのことまで。


でも疑問に思う一方で、聖人が本当に知りたいと思ったことに対しては手段を選ばないであろうことを、あたしは知っていた気がする。

神経質なまでに完璧主義な聖人は、あたしに執着を見せる限り、どんなに離れた場所に暮らしていようともあたしのことは徹底的に調べ上げるだろうって。そう思った途端、抑え切れないほど体の震えが強くなる。



「……あたしが寿々野台に住んでることも、どうやって知ったの?……だいたい、鍵もないのにどうやってここに入ってこられたの……?」

「怖がらないで、ニカ」


また一歩後ずさると、聖人も一歩踏み出してくる。……このままじゃ、退路を絶たれてチェックメイトになる。そうなったとき自分がどうなってしまうのか、怖くてなにも考えられなくなる。

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