可愛げのないあたしと、キスフレンドなあいつ。

「なんでそんなに怯えるの?ニカがどこで何をしようと、僕との約束さえ忘れなければニカのすることを怒ったりしないよ。今までだって、君のどんな悪いことだって僕だけは許してあげていただろう?」


聖人は手を伸ばして、逃げるあたしの肩を掴んでくる。

キスをしようとしてるんだと気付いて肌が一瞬で粟立ったけど、あたしは聖人を突き飛ばすことが出来ない。聖人が高い背を屈めてあたしの唇に触れてくる。



------悪い夢みたいだ。もう二度と、聖人からキスされることなんてないと思ってたのに。



「ニカ、好きだよ」
「……………ババアが、黙って、ない……」


あたしの精一杯の拒絶の言葉を、聖人はなぜか余裕の笑みで受け流す。


「……あ、あたしたちが会ったこと、ババアに知られたら。……今度こそあたし……」


ババアの存在は聖人への抑止力になると思ってたのに。聖人はなんでもない顔をして笑い出す。


「大丈夫。えり子さんは僕たちの障害なんかじゃなくなる。もうすぐね、あの人はそれどころじゃなくなるから」
「……どういう、こと?」

「まだニュースでは出てないのかな?……もうすぐ集団訴訟のことが話題に上がる頃だと思ってたんだけど。もしかして、今になって和解や示談に応じてるのかな?」


聖人はたのしげな顔で不穏なことを言い出す。

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