可愛げのないあたしと、キスフレンドなあいつ。
それは昔、あたしが聖人に言った言葉。
もうその言葉を取り消すことなんて出来ないとばかりに、聖人は言い募ってくる。
「僕がアメリカへ行ってる間に、えり子さんがこんなところにニカを隠してしまうなんて思わなかったよ。成星院の高等部へも進学させてあげないで、西門高校程度の学歴の墓場にニカを通わせていたなんて。本当に可哀想に」
「………ちがうの。それは、あたしの、意思なの」
「まさか!公立のあんなどうしようもないレベルの学校に行くのが君の意思だなんて、冗談だろう?ニカは僕を追いかけて医者になるんじゃなかったのか?もうその夢を諦めたって言うの?」
昔はたしかに『将来医学部に進みたい』だなんていっていたけど、それはあたしの意思なんかじゃなかった。ただ聖人を喜ばせるためだけに言っていた中身のない言葉なんだって、聖人と離れている間にあたしは気付いていた。
「諦めたとかじゃなくて。進路のことはもっと自分のしたいことを自分でいろいろ考えてみたいの。……予備校には行ってるし、今の学校だって、聖ちゃんが言うほどそんな悪くないんだよ……?」
「じゃあ仲のいい友達は出来たの?どうせ周りとレベルが合わなすぎて、本当は毎日辛い思いをしてるんだろう」
「………してない。……高校、ちゃんと、楽しい」
「いや。楽しくないはずだ。そうだろ、ニカ。嘘をついたらいけないよ」
あたしの思考をねじ曲げようとするかのように、聖人はあたしの言葉に否定を重ね続ける。
ほんとは聖人の言う通り、今の学校なんて、たのしいって思ったことはない。
でもあたしの脳裏には、学校に行けば必ず会えるやつの顔が思い浮かぶから。
だからあたしは必死で聖人の否定を跳ね付けて、言葉を紡ぐ。
「ほんとに、たのしいの。……だから。だからごめんなさい。……あたしは聖ちゃんと一緒に、シアトルには行けな………………っ!」
いきなり聖人にウィッグの根元を掴まれて乱暴なくらいの強さで引っ張られた。